次の大迫勇也になるのは誰か。
五輪サッカー代表から読む「経験」論
「現役目線」――サッカー選手、岩政大樹が書き下ろす、サッカーの常識への挑戦
経験によって「経験していないこと」を変えていく
まず、経験とはつまるところ、「サンプル集め」です。あらゆる経験をすればするほど自分の中で「経験していないこと」が「経験したこと」に書き換えられていきます。そして、その集まったサンプルが、様々であることで起こる出来事に対応する力が身についていきます。
サッカーにおいては「同じ場面は二度と来ない」と言われますが、実際には似たような場面ばかりが起こります。選手はこれまでの自分の経験の中で見た同じような局面をイメージしてプレーしています。そのサンプルが多ければ多いほど動じることは少なくなります。センターバックに経験が必要だというのは当然のことなのです。
ただ、サンプルの振り分け方には個性が出てきます。何度か書いてきたように、サッカーは同じ場面を見ても見方によって捉え方は様々です。その新たに得たサンプルを、自分のどこのフォルダに保存するかで、その人の経験の形が変わってきます。
例えば、相手に崩されたわけではなく、偶発的とも言える失点を許した場面があったとします。ある人はそれを「不運」と呼ぶでしょう。「崩された失点ではない」という試合後によく聞かれる言葉でそのまま受け流す選手もいるでしょう。
しかし、「そこに至るまでの過程に問題があったんじゃないか」「もっとスピードやパワーを付けていれば、防げたんじゃないか」「未然に事故を防げるところに立つことができたんじゃないか」「その時間帯にチームを引き締める声を掛けたらよかったんじゃないか」考えればいくらでも理由は出てくるのです。
考えすぎることを推奨しているわけではありません。ただ、同じ場面を経験したとしても、そこから何を考えるかによって、その後の選手像は大きく変わってくるということです。